「推し」と結婚できる時代
先日結婚を発表した、(30)と(41)。以前から二階堂が“推し”であったことも注目を集めているが、タレントの「推し婚」には祝福されるパターンと批判にさらされるパターンが存在するが、その別れ道とは……。【冨士海ネコ/ライター】
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推しと結婚できるなんて夢物語、そう思っていたはずが、芸能界では現実のものになってきた。しかも、一般人ではなく芸能人同士で。お笑い芸人・さんと女優・さんの結婚発表は、その象徴的な出来事だ。だが「推し婚」が祝福されるか批判されるかは、時代や当事者の立ち位置によって驚くほど変わる。平成と令和、それぞれの事例を見比べると、その差は鮮明だ。
平成にも、自分の推しと結婚した芸能人は少なくなかった。例えば、L’Arc~en~Cielのhydeさんが長年ファンだった大石恵さんと結婚したケース。報道当時、大石さんはニュースキャスターとして知的で落ち着いた印象が強く、結婚は「憧れがかなったロマン」として好意的に受け止められた。一方、木村拓哉さんが工藤静香さんと結婚した際も、もともと工藤さんのファンだったとされるが、反応は大きく異なった。国民的アイドルの突然の結婚発表に衝撃が走ったという以上に、工藤さんの人気の要因でもある強い個性も影響して、何年たっても彼女には厳しい声が向けられ続けている。同じ「推し婚」でも、相手のイメージやファン層の受け止め方によって、「ロマン」にも「裏切り」にも変わるのが平成の特徴だった。限られたメディアを通じてしか情報が伝わらなかった時代だからこそ、報道のトーンや演出が印象を大きく左右していたのではないだろうか。
だが令和に入り、「推し活」は一部の趣味ではなく日常の延長線上に広がった。「推し」は画面越しに応援するだけでなく、イベントやSNSを通じて「会えるかもしれない存在」に変わり、その距離感は格段に縮まったといえる。
令和で祝福される「推しとの結婚」は「長年のファン歴」と「物語の共有」が大事?
平成と令和の「推し婚」の違いは、情報の流れ方とファンとの距離感に集約される。平成ではテレビや雑誌が恋愛の物語をつくり、世間はそれを一方向から受け取っていた。一方、令和ではSNSや番組を通じた「推し」への告白から交際、結婚までの過程がほぼリアルタイムで共有される。だからこそ、その過程をどう見せるかが重要になる。
さんとさんの結婚は、まさに成功例といってもいいのではないだろうか。さんが二階堂さんの「推し」であることは、2016年の「火曜サプライズ」(日本テレビ系)で初めて明かされた。“カズ様”の「顔が好き」だとうれしそうに語る二階堂さんの姿は、「ヒミズ」「地獄でなぜ悪い」「私の男」など、近寄りがたい役柄を演じることが多かった彼女の、意外にお茶目な一面として映ったことだろう。
そして翌年の「DASHでイッテQ!行列のできるしゃべくり日テレ系人気番組No.1決定戦 2017春」(日本テレビ系)でついに初共演。「ドキドキしていました」と喜びをあらわにした二階堂さんだったが、当時は他の男性有名人との交際のうわさもあり、リップサービスの域にとどまるとみていた視聴者も多かったに違いない。
しかし二階堂さんの「推し」熱は変わらなかった。2年後の「VS嵐」(フジテレビ系)で再び共演した時も、さんとのほほ笑ましいやりとりが話題に。果たして当時から交際していたかどうかは不明だが、初共演から8年がかりの「推しへの愛を実らせた」という一途さは、祝福ムードを盛り上げたのではないだろうか。
こうした「長年のファン歴」と「推しとの物語の共有」は、令和で祝福される「推し婚」の共通点である。例えば東海オンエア・てつやさんと元AKB48の峯岸みなみさんの結婚もそうだ。てつやさんが10代の頃から峯岸さんを推していたことはファンの間でも周知の事実で、SNSは「夢をかなえた男」として彼をたたえ、「推しと結婚」がトレンド入りした。ここでも、ファンであることを隠さずオープンに語ってきたプロセスが、祝福ムードの土台になった。
また、犬飼貴丈さんと指原莉乃さんの交際報道時も好意的な反応が多かった。犬飼さんは握手会の常連で、筋金入りの「さしこファン」。10年以上の月日を経て初共演したバラエティー番組での照れっぷりも、「ガチファン」という信ぴょう性を高めていた。てつやさん同様に、推しへの熱量を隠さずに語ってきた過程が可視化されており、ファンも一緒に物語を見守ってきた感覚を持てたことが、応援する空気につながったのだろう。
一方、高橋一生さんのファンであると共演番組で明かした若手女優のケースはやや違った。「公開告白」から1年後、写真誌で交際がスクープされた時は冷ややかな反応が多かったように記憶している。交際発覚が共演翌年の週刊誌報道という突然の形だったため、視聴者と共有する「物語」が不足していたことで祝福ムードを育て切れず、「番組の私物化」「にわかファンでは」といううがった見方につながってしまったのではないだろうか。
「推し婚」ではキャリアのつり合いも重要 すべてが可視化される時代だからこその「これまでの歩み」の共有
先の例では、旬の実力派俳優と若手女優というキャリアの差も、「つり合いが取れていない」という声を生んでいたようだ。その点でいうと、さんと二階堂さんは10歳の年齢差があるものの、タレントパワーの差はそんなにないだろう。さんは同志社大学卒、二階堂さんも慶應義塾大学卒の才媛。さんの知的でありつつもひょうひょうとしたキャラと、二階堂さんのどんな役柄もこなす堂々とした雰囲気もあって、「お似合い」という納得感をもって迎えられた。単なるシンデレラストーリーとしての「推しとの結婚」ではなく、二人の間に相互の尊敬や対等さが感じられる大人同士の結婚というのも、好感を与えているようだ。
「推し婚」は夢をかなえる物語にもなれば、批判の的にもなる。祝福されるか否かは、二人がどうキャリアを積み、二人の歩みをどう共有してきたか、そしてその歩みがファンや世間にどれだけ自然に映るかに懸かっている。私の「推し」ではないが、カズさんのトレードマークである「赤」色の糸で結ばれた二人を、これからも応援していきたい。
冨士海ネコ(ライター)
デイリー新潮編集部