中居正広がこのまま沈黙を続けるとは思えない…「性暴力の全貌」報じられた元トップアイドルの”次の一手”

Thumbnail

■日枝氏の「ジャーナリスト宣言」

「清水君(賢治現フジ・メディア・ホールディングス社長=筆者注)はスポンサーを戻すことに懸命ですが、それだけでは十分ではありません。ジャーナリズムの一角を担う矜持を持ちながら、新たなをつくってもらいたい。あの一瞬でこんな会社になってしまうなんて悔しくて堪らない。だからもう一度立ち上がり、時代を変えて欲しいのです」

はジャーナリズムだったんだ‼

文藝春秋(9月号)の「日枝久フジサンケイグループ前代表 独占告白10時間(インタビュアーはジャーナリストの森功氏)」を読みながら、一番感じたのはそのことだった。テレビ局の中では一番ジャーナリズムから遠かったのがフジではなかったのか。

写真=iStock.com/font83
※写真はイメージです – 写真=iStock.com/font83

日枝氏はこうもいっている。

「僕は自分がジャーナリスト出身であることに誇りを持っています」

中居正広の性加害問題でトップたちがコンプライアンスを蔑ろにして中居を守っていたことが発覚。第三者委員会が設置され、「中居正広に性加害があった」とする報告書をまとめ、公表した。

その後に、の社員たちによる検証番組(7月6日10時~11時45分『検証
問題 ~反省と再生・改革~』)が放送されたが、中居にフジの女性アナを紹介した編成局幹部も、セクハラが認められ取締役を退任した反町理氏も、日枝氏からも出ることを拒否されたため、何を検証したのかわからないお粗末な内容になってしまった。

■筆者が驚いた「爆弾発言」

しかし、日枝氏は自分が出なかったことには触れもせず、こういい放つのである。

「検証番組をやるなら、もっと前にやるべきでした。そうでなければ、どうしても第三者委員会に引きずられてしまうので意味がありません。報告書が出るまで動けなかったようですが、本来、テレビ局はジャーナリズムであり情報機関なのですから、独自に調査すべきだったと思います。そうでなければジャーナリズムではないでしょう」

がジャーナリズムで、自分がジャーナリストを自称するのなら、進んで検証番組に協力すべきだったと思うが、そういう考えはすっぽり抜けてしまっているようだ。

日枝氏は中居と自社の女性社員とのことは「何も知らなかった」。人事権を一手に握り“ドン”として君臨し、楽しくなければテレビじゃない「上納文化」をつくったのではないかという問いにも、当然ながら全否定している。

だが、こんな爆弾発言をしている。

「実は(中居問題発覚=筆者注)騒動の当初、社内で(遠藤龍之介前副会長が=筆者注)とんでもない発言をしていました。およそ二十人が集う局長会で、遠藤は『これは簡単にいえば、隠蔽の失敗です』と発言してしまったのです。(中略)彼の意識のなかではその程度の認識しかなかったということでしょうね」

日枝氏自らがいっているように、自分で決めることができずに逃げてきた上層部が、人心が一新されてもを変革できるとはとても思えない。フジの前途は暗澹という言葉しかないようだ。

■文春が明らかにした「あの日の夜のこと」

中居正広を芸能界から追放し、の隠蔽体質やガバナンスの欠如を暴いて大幅な赤字へと転落させた「中居の性加害の実態」の全貌を、ついに週刊文春(8月14・21日号)が明らかにした。

写真=共同通信社
タレントの中居正広さんが芸能活動を引退することを伝える街頭モニター=2025年1月23日、東京・渋谷 – 写真=共同通信社

文春は冒頭、その日の夜をこう描写している。

「二〇二三年六月二日、都心の奥座敷と称される東京都目黒区の高級住宅街。雨の降りしきる中、城壁のような石積に囲まれたエントランスに立った元アナウンサーX子さんは覚悟を決め、事前に知らされていた部屋番号を押した。

(中略)

九十七平米の室内の中央にあるリビングには、白熱灯が煌々と灯っていた。部屋着のTシャツと短パン姿の中居は、鍋の具材を几帳面に並べていた。

『やっぱりそういうことか……。みんなで飲む気なんて最初からなかったんだ』

X子さんは高級肉を包む百貨店『大丸』の包装紙を目にして、そう確信した。彼女が絶望のどん底に突き落とされたのは、その数時間後のことだった――」

文春が中居とX子さんとの「その夜の出来事」を正確に把握できたのは、X子さんの仕事仲間の番組スタッフから、中居正広様と書かれたA4の紙3枚の「通知書」を持ち込まれたからだったという。今年7月のことだった。

■何人もの弁護士から断られた

これは、そのスタッフによると、「彼女は携帯電話のメモ機能を利用し、その日受けた被害を細かくメモしていました。私たちも事件直後から被害の報告を受けていましたが、それを元に代理人弁護士が損害賠償を求める通知書を作成。中居さんの事務所に内容証明郵便を送ったのです」

通知書には「あの夜」の全容も仔細に描写されていたという。

さらに番組スタッフは、事件当日から同年7月31日の約2カ月にわたり、X子さんと中居が交わした計50通以上のショートメールのコピーも文春に提供したという。

X子さんに文春が接触したのは今年の8月上旬だったと記事中にある。これは、「通知書」を手に入れてからは初めて接触したという意味だろうが、彼女は「(中居側との)示談交渉」の前に、通知書などを友人らに見せて意見を求めたことを認めている。

「当時、私は何人もの弁護士から『芸能関係の仕事が出来なくなるから』と代理人の受任を断られました。その後、ようやく今の代理人弁護士と知り合うことができて、当時のメモをもとに“あの日起こったこと”を書面にしてもらいました。(中居側との)示談交渉の前に、通知書などを友人らに見せて意見を求めたことは確かにありました」

しかし、「守秘義務があるから、その後の経緯や合意書の内容については何もお答えできません」ともいっている。

■そこに大義はあるのか

事件が起きた夜、X子さんが、中居からどのような性暴力を振るわれたのかを、文春は微に入り細を穿って描写している。

だが、これを公表していいのかどうかということについては何度も慎重に協議を重ねたという。

それはそうだろう。X子さんの究極のプライバシーを侵すことになるかもしれないのだ。そこに大義はあるのか?

文春は、「目下、X子さんを取り巻く環境は、危険水域に達している。あの夜の出来事は守秘義務の壁に阻まれ、臆測が臆測を呼び、無慈悲な刃となって彼女を苦しめ続けてきた。実際、SNS上には彼女の顔写真にナイフを突きつけるような画像がアップされている。警視庁捜査一課が捜査を進め、近く立件する見通しだ」という差し迫った現状などを鑑み、法律家の意見も聞いて、こう決断したというのである。

「この事態に終止符を打つため、小誌(週刊文春=筆者註)は今まで触れられていなかった一連の経緯について報じる意義があると判断した」

公共的関心事だというのである。だが、ここで文春は触れていないが、当事者であるX子さんの了解をとっていないとは、私には思えない。

■「ただただ気持ち悪かった」

この中居事件の最初の報道から、X子さんの友人、知人たちの協力を得ていたと書いてある。まして、今回は「通知書のコピー」をもってX子さんと会ったと記事中ではっきり書いてあるのだ。

X子さんの了解、または暗黙の了解を取り付けていなかったはずはない、と私は考える。したがって、ここまで表に出すと決断したのはX子さんだったはずで、文春はそれを受けて協議したのではないのか。

その“決断”の内容をみてみよう。

中居は最初、いきなりキスを迫り、その後も力づくで執拗にキスを繰り返してきた。その行為はさらにエスカレートしていった。

彼女が「やめてください」というと、一旦行為を止めた。だが、中居は服を脱ぎ捨て彼女に襲いかかり、身動きができず恐怖と絶望から涙を流す彼女のことを意に介さず、「欲望の赴くままに行為を遂げた」というのだ。

そして、行為が終わった後、泣いている彼女に中居はこういったという。

「エッチ好きじゃないの? なんで泣いてるの?」

彼女の帰宅後から連続的に中居からメールが送られてきたそうだ。そしてこう誘った。

〈もう、心配しました。大丈夫かな。楽しかったです。早いうちにふつうのやつね。早く会おうね!〉

X子さんは友人らにこう感情を吐露していたという。

「“ふつうのやつ”というのは、意に沿わない行為をしたという認識がある人の言葉。その後のメールもただただ気持ち悪かった」

写真=iStock.com/bombuscreative
※写真はイメージです – 写真=iStock.com/bombuscreative

■事件後に中居が送ったメール

そして“事件”後に、中居にこういうメールを送ったそうだ。

〈私がなぜ泣いていてか、分かりますか? 怖かったからです〉と書くと、3日後、中居からこう返事が来たという。

〈当時の事を考える事、振り返る事、大変しんどかったと思いますが、正直な思いを、伝えてくれてくれました。申し訳ないです。自分との解釈のズレがあるものの、その様な思いだとは、大変自分も辛いです〉

彼女はフジの中で孤立していたのではなく、何人かの支えてくれる仲間がいたことで、自殺まで考えたという最悪の状態から抜け出せることができたようだ。

の港浩一前社長や大多亮元専務たちは、彼女のプライバシーを最優先したなどといい訳をしていたが、社内には中居事件を知っている者がいたのだから、「中居隠し」が成功するはずは最初からなかったのだ。

X子さんの代理人弁護士は中居に送った内容証明郵便に概ねこう書いたという。

「人生で一番輝かしい時期に、また将来に向けてさらに大きく羽ばたいていこうと希望にあふれていた中で、貴殿(中居)の性暴力によってその羽をもがれてしまった通知人(X子さん)の無念さ、悔しさは筆舌に尽くしがたいものです」

■もうひと騒動ありそうな予感

X子さんの代理人弁護士と中居側の弁護士との協議は、番組のスタッフによればこのようだったという。

「行為自体の有無は争わず、スムーズに損害賠償額の話に移行したといいます。当初は一般的な性被害の示談金の二、三百万円からスタートしましたが、入院が長期に及んだこと、人生の希望が絶たれたこと、特殊な上下関係などを考慮し、金額は上乗せになっていった。中居さんは示談成立を急ごうとする一方、『貯金がそんなにない』と出し渋る素振りを見せていましたが、翌年一月七日に示談の合意書を交わすことになったのです」

この記事を読んで私が疑問に思うのは、X子さんと中居の代理人同士が示談した際、結んだといわれる守秘義務には、「その夜何があったのか」を明かすことは入っていないのだろうか? 守秘義務は「示談した金額は明かさない」ということだけが入っているのだろうか?

たしかに、X子さんのコメントは他の週刊誌にも載っているが、示談金がいくらだったのかを彼女は全く話していない。

だが、常識的には、そうは考えられない。文春の取材に対して中居の代理人は、「ご質問の内容については、双方が合意した守秘義務の対象範囲に含まれる可能性があり」云々と答えている。

もし中居が破れかぶれで、X子さんを守秘義務違反で訴えたらどうなるのだろう。

この記事が新たな火種になる。私にはもうひと騒動ありそうな予感がするのだが。

———-
元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、近著に『野垂れ死に
ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。
———-

(ジャーナリスト 元木 昌彦)

Related Posts